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ロシアの旅(2)〜古きよきモスクワの歴史にふれて〜

〈3日目〉
朝9時ごろホテルを出発して赤の広場の横を流れるモスクワ川の対岸でクレムリンの南に位置するトレチャコフ美術館へ向かった。この美術館は1851年モスクワの商人であったバーヴェルとセルゲイのトレチャコフ兄弟が自邸に美術ギャラリーを開いたことから始まったと言われている。ここには主にロシアの芸術家たちの作品が収蔵されている。この日は朝早かったが前庭はすでに外国からの観光客と思われる見学客でいっぱいだった。収蔵されるコレクションは約13万点にもおよび、その多くはロシアのイコンが主体である。トレチャコフ美術館の見学を終えて、クレムリンの外壁が一面に見える通りを横切って昼食の場所となるレストランへ行った。ここではロシア名物ボルシチやシャシリク(ロシア風串焼き)を堪能した。不思議に思ったのはロシアではどのレストランへ行ってもデザートがとてもおいしかったことだ。昼食後この日の観光のメインであるモスクワ地下鉄駅を見学した。地下鉄は私が想像したよりも古かったが、装飾は豪奢で駅そのものが美術館と言ってもいいほどの存在である。それぞれの駅の装飾は異なる特徴を持ち、各駅を見るたびに我々は一同驚嘆の声を上げた。実際に3駅間に乗車してみたのだが、切符は一律5ルーブルで、日本のように自動改札機ではなく有人の窓口で買った。ホームへ向かうのにエスカレーターに乗ったのだが、どんどん下ってやっとのことで着いた。後で調べてみると日本では深いと言われている大江戸線の2倍の深さであることが分かって納得がいった。この地下鉄はクレムリンの真下を中心にモスクワ中心部に位置することから私の想像だが、地下鉄になる前は核シェルターだったのではないかと疑った。ガイドに写真撮影は可能か尋ねたところOKだったので駅構内のあちこちでシャッターを押しまくった。ホテルに戻ってガイドブックを読むと「駅構内写真不許可」とあり、ちょっと前だったら警察か軍に連行されていてもおかしくはなかったと分かり、胸をなでおろした。

体験乗車を終えて私個人としての最大の目的であるロシアの一般家庭を訪問した。訪れたのはモスクワの郊外にあるアパート群の一角にある家庭で、ご主人と奥さんに息子夫婦の4人家族だった。ご主人は一般の労働者で給与が日本円で約7万円の中流家庭である。この日は奥さんの他は外出していて一人で我々日本人6人を快く迎えてくれた。用意された3種類の手作りのお菓子はとてもおいしく、おかわりまでしてしまった。また彼女はアコーディオンが上手で日本の懐かしい曲を3曲も聴かせてくれた。どうして日本の曲を知っているのか尋ねてみると、以前に日本人と交わる機会が多くありその方々から教わったとのことだった。私はさらにインタビューを試みてみたところソ連時代つまり共産主義時代からペレストロイカを経て現在に至るまでのことを教えてくれた。彼女が強調していたのはペレストロイカ後、外国からの旅行者が入るようになったことが自分たちにとって良かったと言うことだ。そして日本人観光客が自宅に訪れるようになって、ボールペンを貰ったのがうれしかったらしく、それは筆記具としては羽ペンを使っていたからだった。話しがプーチン大統領について及ぶと彼女は口をつぐんで、一切ノーコメントとのことだった。有意義なロシア家庭訪問を終えてホテルに戻った。

〈4日目〉
この日は朝早くに起床して荷物をまとめ、空港に向かった。そして10時55分モスクワ発SU843便に乗り、1時間半のフライトでロシア第二の訪問地サンクトペテルブルグに到着した。この地は“北のベネチア”と称され、またの名を“水の都”とも言われている。過去にはロシアの首都であり“レニングラード”と呼ばれていた。レニングラードの由来であるレーニンはこの地の生まれ、マルクス・レーニン主義を発案して1917年ロシア革命を成功に導いた。その後ソビエト連邦政府のトップとして社会主義国の建設を主導した国際的革命家である。ソ連時代全土に120ほどあったレーニン像はソ連崩壊後現在3つ残すのみとなっている。昼食は市内の中心にある素敵なレストランでの有名なソリャンカ、スパイシースープ、ペリメリ(ロシア風ギョーザ)であった。もちろん料理は美味かったが、例年にないと聞く暑さのためビールがなんと言っても美味かった。

午後はアレクサンドルネフスキー修道院と血の上の教会を訪れた。修道院の傍には音楽家やバレエ指導者の墓があったが、中でも立派だったのは作曲家チャイコフスキーのものであった。墓石の前面には彼のトルソが施され、ひときわ威光を放っていた。その他に墓の前に立つとその作曲家の曲が流れるものもあり驚かされた。この後行った血の上の協会は町の中心で運河に並行する場所に立っていた。名前から血生臭いイメージを持っていたが、やはりここは1881年当時の皇帝アレクサンドル2世が爆弾により暗殺された場所であり、その後鎮魂のため建てられた協会であると知った。外見はまさにおとぎの国の建物といったロシア建築で内部はフレスコ画が壁全面に施されていてどこを見てもキリスト像が目に入るようになっていた。

私はここでも夢中でカメラのシャッターを押し続けた。この夜はここから歩いて10分ほどのところにあるレストランで夕食をとった。メインはチキンを使ったロシア名物キエフ風カツレツで、最後に出されたケーキにはキャビアが添えられていて私は喜んで食べた。しかし残念ながらそれは本物のキャビアではなく、ロシアに来て本物のキャビアにありつけなかったのが返す返す残念であった。そしてこの日はホテルのベッドでぐっすりと眠りについた。

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