昨年の暮れから新年にかけて、南米大陸で最も興味のあったマチュピチュとナスカを訪問した。古代の空中都市マチュピチュ、大地に残る地上絵で知られるナスカ、そして、インカ帝国最大の都市であるクスコを訪れることができたのは大きな収穫であった。
最初に訪れたナスカはペルー南海岸の広大な砂漠に描かれたナスカの地上絵がことのほか有名である。巨大な鳥や動物の絵は、一体誰がなんの目的で描いたものであろうか、一説によると宇宙人が描いたという説や、星座や天体を表しているという学説が有力であるが、いまだその謎は解き明かされていない。しかしこの地上絵も年々風化が進んでおり、以前のようにはっきりとは見えなくなっているのが現状である。このまま風化の一途を辿れば、おそらく数十年先には幻のように地上から消え去っているのではないかと危倶されてならない。まさに古代大陸の神秘である。
次に訪れたのはインカが残した空中都市マチュピチュである。この空中都市は、スペイン軍に追われたインカ民族が逃げ延びて、標高2700メートルの山頂を切り拓いたという説が一般的である。しかし実際は、皇帝の政権をを巡るペルー一帯の民族紛争によって帝国を追われた部族が、次の移住地を求めてアンデス山頂に新天地を求めたというのが事実のようである。マチュピチュ一帯は水が豊富で雨量も多く、気温が安定した亜熱帯の気候で、まさに南米のリゾートとも言える風土である。かつては一万人が住んでいたという説があるが、水量や生活様式からみると実際は人口500人程度の小さな村であったことが予測されている。インカ民族は遊牧の民であり、常にアンデスの山々を移動しながら生活を営んでいた。インカの民族にとって太陽は最も崇高なものであり、太陽に近いことが最高の幸せであり、太陽を中心とした生活様式や都市作りをしていたのである。山の中腹に作られた段々畑や、急斜面に作られた遺跡の階段は、見る角度によってがらりとその表情を変え、その姿は幻想的ですらある。これこそが自然の本来の姿であると、自然医療を生涯のテーマとする私はことさら深い感動を覚えたのである。
次に向かったのは、町全体が世界遺産として登録されているインカ帝国の首都・クスコである。太陽を神とする古代都市クスコは、「へそ」という意味であり、世界の中心、宇宙へ通ずる道という意味が込められている。この都市は標高3360メートルの高地に造られているため空気が薄く、観光客が高山病で悩まされることでも有名である。クスコはインカの名残とスペインによる征服の足跡を刻む都市である。至るところに残されたスペイン風の建物がインカの遺跡と微妙なコントラストを描き、不思議な景観を保っている。日本の石垣とよく似た「石組」は、かみそりの刃一枚も通さない精密さで造られており、まるで日本の城や武家屋敷のようである。
ペルーという国はもともと非常に貧富の差が大きく、都市部に人口が集中しているが、万全のテロ対策による観光客の増加や3000に及ぶ学校設立など、フジモリ大統領の功績はいまだ国民に支持され復活を期待する声も多い。
今回、日本の裏側にある南米ペルーを訪ねたことは大きな収穫であった。インカを知ることが南米を知る手掛かりとなったことはもちろん、古代遺跡の中に、人類の叡智と自然医療の原点を垣間見ることができた貴重な旅であった。
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