ヒポクラテス医学が、あえて病名をつけずに患者の症状の観察(見る・知る・触る)や自然界の環境などに重きを置いたのは、実際に病名を知ったからといって、健康回復に直接役立つかも分からないからだ。むしろ、病名に惑わされて大事な症状そのものを見落としたり、治療法が偏ったりする。ただ、病名を患者に与えれば、それで医師としての治療方針ははっきりすることも事実である。
ヒポクラテスは当時、感染症であるマラリアが流行する地域を遍歴して治療を行なっていた。その際指針にしたのが、「三日熱」「四日熱」という、3,4日ごとに発熱と平熱を繰り返す患者や、全く発熱がおさまらない患者をよく診ていた。現在では寄生虫であるマラリアのライフサイクルによって発熱と平熱が起こることは分かっているが、それが全く分からないこの時代のヒポクラテスがこれらの症状を観察して、追求し発見したことは凄いことである。更に、ヒポクラテスは積極的な治療をするより、患者に安心感をあたえることを心がけたといわれている。
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