ヒポクラテス全集に特異な病気として「神聖病(癲癇)」の記載がある。古代では神がかり的病気として信じられていた。そのためヒポクラテスは俗説、迷信、俗信を排し、逆に攻撃することから始めた。そしてこの病気を他の疾患同様自然的原因によって起こるものとした。特に脳が原因していると考えていた。
発症は脳の中の粘液に関係し、これが体の脈管系に流れるためにいろいろな発作症状が現れると考えられた。そして発作は脳の備わっている恒常性を乱す気候の寒冷・風・太陽光によって生じるとされている。
「神聖病」は紀元前5世紀後半から4世紀初めに書かれたものである。この時代、医術は「魔術論」と「医学論」の分かれ、前者は超自然的な祈祷・呪術・魔術的な方法で治し、後者は自然的原因を有するもので、自然的手段で治そうとした。この2つの考え方や方法論ははるか以前より続いていた。
しかしヒポクラテスは全集の「神聖病」の論文中に魔術信仰の否定を行い、魔法使い、魔術師、偽医師などに挑戦を臨んだ。それは一般大衆に浸透していた迷信説や神聖視に対しての真実を明らかにするためであった。ヒポクラテス自身は「神聖病」を癲癇性のものと考えていた。何故なら身体と精神の両方の症状を持っており、他の病気より神経症やこころ(意識)が違う反応を持っている疾患と見ていたからであった。
「癲癇」という言葉は紀元前200年古代中国の秦の始皇帝の時代、「黄帝内大素」に最初に使われた用語であったとされている。「癲癇」の癲は倒れる、癇はひきつけ、痙攣を意味する。ヒポクラテスは癲癇を自然による病気にしたため、信仰上から「神聖病」とした。まさに魔術的信仰説を変えた世界最古の書物である。
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