<ヒポクラテスの教え>
「別々のところに同時に2つの痛みが生じた場合、強いほうの痛みがもう一方の痛みを弱める」
このヒポクラテスのこの言葉を裏付ける理論が、アメリカとカナダの医学者によって発表されています。それによると、末消での触覚・圧覚・痛覚は、神経線維で脊髄後角(脊柱の中を通る脊髄の内、感覚神経が通過する部分)に伝達されますが、刺激によって興奮した神経はその太さによってこの部分でゲートが閉じたり開いたりします。
つまり、太い神経線維からの刺激を受けているときに、細い神経線維の刺激が伝わっても、それは遮断されてしまうのです。この理論は、それまでの痛みに対する考え方を覆すものであり、ヒポクラテスの言葉と一致する、最新の痛みに関する理論なのです。
実際、臨床の上からも私のクリニックで実証するようなケースがありました。20代後半の男性が交通事故によるむち打ち症状を訴えて来院してきました。当初は首のまわりの痛みと首が回らないことだけを訴えていました。しかし、交通事故で頚椎の挫傷(ねんざ)をした場合、同時に反動で腰椎部も前方にスライドするため損傷を伴うことがほとんどなのです。本人はそうした痛みはまったく訴えず、頚椎の損傷ばかりを治すよう哀願してきました。しかし、首の症状が徐々に軽減するにしたがって腰周辺の痛みが徐々に現れてきたのです。この例から言っても、弱い痛みは強い症状によって隠されているということになります。幸いなことに強い痛み、弱い痛み双方について施すことで全快に達した。まさにヒポクラテスの理論の正しさが実証された一例でした。
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