古代ギリシャの哲学者でプラトンの弟子であったと言われるアリストテレスは、著書の中に次のような記述をしている。
「医者と言われるものには普通の治療医と大家の医者と、第三にその医療技術についてただ教育を受けただけのものがある」
ヒポクラテスはもちろん大家であり、彼の元には多くの治療医を志す者が医術の学ぶため集まってきた。その結果、自然に医学校が作られ、そこで教えられた事項は70篇の医学書にまとめられた。それが医学教育書である『ヒポクラテス全集』となった。その中には優れた医学の思想や内科外科に限らず医術の実際的治療法が詳細に記載されていた。そしてそのタイトルを『古来の医術』とした。この表現は新しい医術に対して使われた言い方であり、科学・哲学的色彩の強いものと分離した唯一のものであった。
人間の本性に基づき原理も方法も抽象的な哲学原理から完全に独立させようと試みたものであった。また古来の医術の基本となった食事療法に対し、さらに基礎をなすものとして火・空気・水などの原理を仮定し健康と病気について新しく解説をはかった。ただヒポクラテスは「何が自然を支配するのか、何が本性を支配するのか、何が季節に支配されるのか、何か自分の起源なのかなど自然について語り、医師はあらゆる事柄においてそれにのっとった行動をしていかなければならない」と言った。
もっと分かりやすく言うと人間の秩序ではなく、一つの定められた自然の秩序にのっとって行動すべきであると言うことだ。人間に支配されることなく、自然を通じて神にのみ支配される。それを理解してこそ、体の本性について知識が生まれる。また人間とは何かを理解することができ、医術を知ることができる。
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