近代の世界の医学は凄まじい勢いで進歩している。わが国もその例に漏れず目覚しい発展を遂げてきた。しかし病人の数は一向に減少しない。どうしてそのようなことが起こるのだろうか、その原因は明治時代に我が国が取り入れた西洋文化・医療に問題があるように思える。当時の日本ではドイツ医学が中心になって医学が組み立てられたが実は世界では医学の中心はドイツ医学ではなく、イギリス医学であった。18世紀イギリスで起こった産業革命で科学が中心となった。特に欧州の中でもドイツが技術である科学を行政に取り入れたため、明治政府がドイツ医学を日本の医学の手本とした。18世紀まではヒポクラテスの言う哲学を基本とする医学が主流を占めていた。それが19世紀以降目覚しい科学の進歩で哲学が排除された。その結果、知識・臨床が中心となり統計的な医学が一人歩きし患者と医師との隔たりが生じてきた。つまり上から下を見る医療に換わってきたのである。哲学のある医学だと同じ目線で病気について考えることができ、患者と医師が同じレベルで病気に対応することができる。この大きな転換が今日の医療の弱点となってきている。確かに現代は西洋医学が過渡期に入っている。つまり科学で解決できないことが多くでてきて、どうしても患者が治らない状況が表われている。こういうときこそもう一度医学の原点に返り、哲学を取り入れたヒポクラテス医学に立ち返ることで多くの患者の救済につながると考える。「見る・知る・触る」ことで宗教医学から臨床医学へと変えたヒポクラテスの方法は今日でも十分通じうるものである。もう一度古代・中世、そして近代初期の医療を見直す時期に来ているようである。 |